新人経済記者に「景気の見方」をアドバイスしてみた – 塚崎公義 (大学教授) – BLOGOS

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新人経済記者に「景気の見方」をアドバイスしたので、その内容を御紹介します。新人経済記者の方にはもちろん、それ以外の方にもお役に立てれば幸いです。

■マクロ経済に親しみを持とう・・・これが難題なのだが(笑)。

物価が上がったから生活が苦しいとか、消費税が増税になって生活が苦しいとか、株価が上がって金持ちが贅沢をしているとか、労働力不足で倒産する会社が増えているとかいった話は、手触り感がありますから、親しみやすいですよね。主婦や社長の立場で考えれば、わかり易いですから。こうした話は、ミクロ経済と呼ばれます。

しかし、なぜ物価が上がったのか、消費税を増税すべきなのか否か、といった話は、手触り感が得にくく、親しみが湧きにくいですよね。「総理大臣が考えれば良い事だから、私には関係ない」と言いたくなりますよね(笑)。こうした話はマクロ経済と呼ばれます。

ミクロ経済は木で、マクロ経済は森なので、「木を見て森を見ず」にならないように気をつけましょう、と言われます。別の見方をすれば、劇場火災の際に個々人を見ていると「非常口に向かって走れば良いのに」と思いますが、劇場支配人の視点から見ると、「皆が非常口に向かって走ったら危険だ」となるわけです。これがマクロの視点です。

「皆が豊かになろうとして懸命に働き、倹約に努めたら、多くの物が生産される一方で少ししか売れないので、売れ残って倒産する企業が増え、失業が増えて景気が悪くなり、皆が貧しくなる」などという事を考え始めると、苦手意識が強まってしまいますよね。

しかし、物は考えようです。他の記者たちも、マクロ経済を苦手にしているので、マクロ経済は少しわかっているだけでも、重宝してもらえます。「企業の決算書の見方」などは、誰でも知っているので、よほど詳しくないと重宝してもらえませんから、マクロを勉強した方が得かも知れませんよ(笑)。

そのためには、無理をしてでもマクロ経済に親しみを感じましょう。そして、色々な物を読んでみましょう。幸い、ネット上に景気などの話はいくらでも乗っています。まずは内閣府の月例経済報告と日銀の展望レポートを覗いて見ましょう。いきなり理解するのは無理でしょうが、親しみを持つ事が出来れば十分です。

■経済学理論は最低限で良い・・・気が楽になったはず

経済学理論は難解ですが、実際の経済は決して難解ではありません。人々の日常的な経済活動が寄り集まってマクロ経済になっているわけですから。「景気が良くなって人々が物を買うと、企業は増産するために失業者を雇うので、給料を受け取った元失業者が一層多くの物を買う」といった事で景気が動いていくわけです。少し慣れれば、大まかなメカニズムは理解出来るでしょう。

当然ですが、「経済成長率が高い時は景気が良い」といった基本的な事は、勉強しましょう。野球やサッカーのルールや基本的な作戦などを知らなければスポーツ記者にはなれないのと同じことです。

経済成長率とは、日本国内で作られた物(サービスを含みます。以下同様)の量が増えたスピードの事です。国内生産が増えれば、そのために企業は失業者を雇いますから、経済成長率が高い時には失業者が減り、低い時には増えると考えて良いでしょう。したがって、景気の予想屋たちは、経済成長率の予測を発表するのです。「景気」という統計があるわけではないので、「来年の景気は相当良いでしょう」と言っても聞き手にイメージしてもらえないからですね。

あとは、月例経済報告の「主要経済指標」のグラフを眺めてみましょう。プロたちがどんな統計を主に見ているのか、知っておかないと、取材の際に困るでしょうから。もっとも、個々の経済指標について勉強するのは大変ですし、得るものも多くないでしょう。せいぜい、米国の雇用統計と日銀短観の業況判断DI(市場関係者が最も気にしている統計)が何であるかを調べておく程度で良いでしょう。

■「マクロ経済について学べる教科書」は無いので、経験を積むべし

マクロ経済について学ぶとして、何を読めば良いでしょうか?マクロ経済については、様々な人が様々な事を言っているのですが、「これを読めば良い」といった教科書が無いのが実情です。

経済学の理論については、いくつかの学派に分かれていますが、それぞれの学派の見解はそれぞれ本にまとめられています。しかし、生きた経済の見方については、「10人に聞くと11通りの予想方法が教われる」ほどです(笑)。人によって言う事が違うので、「皆が一致する考え方」が存在しないのです。そもそも、人によっては予測した結果だけを発表して、なぜそう予測するのかを示していない場合も多いのです。そうした人に予測手法を聞いても、「長年の経験と勘による」とだけ回答されて、面食らうかも知れませんよ(笑)。

■景気について語る人は4種類。それぞれの関心事項が異なる事に要注意

景気等々について論じる人は、全員が自分の事を「エコノミスト」と呼ぶ事がありますので、紛らわしいですが、大きく4つのグループに分かれていると考えて下さい。経済学者、予想屋(筆者はここに属しています)、市場予想屋、トンデモ屋です。「10人に聞くと11通りの予想方法」と記しましたが、それは各グループの中でも人それぞれ少しずつ違う、という意味です。

経済学者は、理論重視で現実軽視です。経済学理論は精緻なのですが、「人々が合理的に行動するとすれば」といった仮定を置いた議論なので、現実の経済を説明することが難しいのです。100年後には素晴らしい学問になっていると期待していますが。そこで、「最近話題の経済学理論についてどう思いますか?」と聞かれても、筆者は「難しい事はわかりませんが、置いている前提が現実的では無いような気がしますね」といったコメントをする事が多いわけです。

新人記者にとって、経済学理論について取材をするのは辛い事でしょうが、経済学者の方も記者が理解不足である事は容易に想像できますので、結構丁寧に教えてくれる場合も多いようです。ただ、一つだけ「主流派経済学者は、失業の問題を気にしない」という事は覚えておいた方が良さそうです。

一般人と経済学者の相互理解が難しいのは、「一般人は失業を気にするけれども経済学者は失業を気にせず、しかもお互いに相手も自分と同じだと思っている」からなのです(笑)。これは重要なことで、一般論としても常識が異なる相手に取材する時は気をつけて下さい。と言うよりも、相手の常識が自分の常識と異なるかも知れないと常に身構えておく事が重要でしょう。

私の失敗例です。ドイツには、「インフレさえ防げれば、景気など気にしない」という人が少なくありません。私は、それを理解するまで、「円高って素晴らしい」と主張するドイツ人と無駄な議論を繰り返してしまいました(笑)。ちなみに、円高になると景気は悪化するけれども物価は下がります。念のため。

景気の予想屋は、景気そのものを予想するのが仕事です。数多くの経済指標を幅広く眺めて、景気の大きな流れを「長年の経験と勘」で見極め、予想しようとします。具体的には、現在の景気の方向を見定めて、財政金融政策で景気の方向が変わる可能性、外国の景気変動等の影響で日本の景気が方向を変える可能性、などについて予想するわけです。

景気の予想屋は、最低限の経済学理論は知っていますが、「理論は経験と勘を補うもの」としか考えていません。そこで経済学者からは「勘ピューター」と呼ばれるわけですが、「理路整然と間違える人々よりはマシでしょう」と受け流します(笑)。

市場予想屋は、株価や為替などを論じるために景気について語る人々です。予想屋と大きく異なるのは、日米の金融政策を非常に重視する事でしょう。それは、株価や為替などが金融政策(を巡る噂や思惑)で大きく動くからです。一方、予想屋は金融政策にはそれほど関心を示しません。「金利が0.25%上がったから設備投資はやめておこう」などという会社は無いからです。

トンデモ屋は、「世界経済が破綻する」と言い続ける人です。根強い人気があり、マスコミ的には記事にしやすいので、取材に行く事も少なく無いと思いますが、聞いた内容は、自分でまとめて記事にしましょう。予想屋や市場予想屋にトンデモ屋の主張を示して「どう思いますか?」と聞くのはやめておいた方が良いと思いますよ(笑)。

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